「着物」──この深遠なるケモノ道に、酸いも甘いも味わい尽くした(嘘)、40代独身女性がひょんなことから迷い込み……。
 昨今は若い方々の間でずいぶんとむかし着物なんてのが盛り上がってるようですが、そちらとは一線を画すオトナ?の趣味の着物ライフ(入門編)に肉迫!?
「ご用とお急ぎでない方だけ(←強調)お立ち寄り下さい」とは著者本人の弁ですが。

TEXT by 松嶋ヤヨイ


16.木挽町桜吹雪編

 着物を買った以上は着なければならぬ。
 3月の歌舞伎座は仁左衛門、玉三郎、勘九郎と人気役者勢ぞろいの座組である。まずは夜の部、仁左・玉の源氏店。今回、京都で買った江戸小紋デビューに当たり、遠大な仕込みをした。まず前日、Yさんに会社へ道行きコートを持ってきてもらう。それを借りて帰り、翌日自力で着物だけは着付け、伊達巻まで巻いて、借りたコートを羽織り、帯をもって2時までに早稲田のYさんの家へ行く。そこでお太鼓を締めてもらって、一緒に歌舞伎座へ行く、という段取りである。ちなみにこれ、Yさんのアイデア。
 午前中から本を見い見い四苦八苦して、なんとか江戸小紋を巻き付け、コートを羽織って東西線に乗る。Yさんの娘時代のものだというコートは、かわいいローズピンクで、しかも裄が私には短い。帯を締めてないから背中はぺったんこ。どこかうしろめたいので、袖を必死で引っ張りながら電車の中の視線が気になって仕方がない。ようやくYさんの家にたどりつき、「まあまあうまく着れたんじゃない?」と言う言葉に一安心。そこで最終的に手直しをしてもらい、やはり京都で買った帯を締める。お太鼓は人にやってもらえば簡単そうだが、いまだに自分ではよく理屈がわかってないのと、四十肩で腕が後ろに回らないのでつらい。しかし一つ紋の江戸小紋に半幅帯というわけにはいかないんである。黒地の着物にオフホワイトの帯だから、映りは悪くないが、ちょっと地味かなあ。なんとか私の方が終わって、Yさんのお着付け。春なので、10代の頃に作ったという抽象化されたピンクの大きな花柄の小紋に、桜に柳の心で抹茶色の絞りの帯にする。こちらは20分ほどで終了。
 コートを返してショールに換え、木挽町へ出陣。4時の開演まで時間があったので、近くの喫茶店にてサンドイッチとお茶で軽く腹ごしらえをする。レジへ立つと、近くのオバサンがこちらを見ながらなにやらひそひそ。一瞬ぎくっとするが、Yさんが「白い帯もいいものねえ、って言ってたわよ」と耳打ちしてくれてほっとする。
 さて、歌舞伎座へ入ってびっくり。客席は桜の着物の花盛りなんである。いくらここ一番の機会とは言っても、こんなに湧いて出るものとは知らなかった。大島のオバサマもちらほらいるが、それでも帯は桜だったりする。歌舞伎座は東京でも一番和服着用率の高い空間だと思うが、それにしたってこんなにみんなおんなじ柄を着なくてもよさそうなもんだ。Yさんもまあ、桜っちゃあ桜の柄である。そうした感想を述べるとYさん、「それでも桜の着物は着たいものなのよお」とのたまう。アンチ花柄の私は「へえ、そういうもんでっかー」てなとこだが、3月中ないし4月の第1週までしか着られないというのはなんともぜいたくなもんである。初心者としてはとてもとても。季節知らずの江戸小紋と雷柄の帯が分相応であります。逆にカウンター気味でいいんじゃないかとひとりナットク。芝居はせっかくの仁左・玉の源氏店だったが、仁左衛門が体調を崩していたのと勘九郎のウケねらいの芝居ではなはだ不満。誰かあの小日向町の天狗をなんとかしてくれ。
 昼の部のほうは、Yさんと、Yさんの御主人とその友達のIさんという4人組となった。Yダンナはお父さんのものという大島のアンサンブル、Iさんはお茶の宗匠とかで、やわものの着物に紬の羽織という、なんだか芝居の関係者か噺家のような感じ。さっそく「師匠」と呼ぶことにする。Yさんは桜柄の結城紬である。で、私は祖父の村山大島のアンサンブルに、Yさんにいただいた博多の付け帯。なので、一見男3人に女一人の集団のように見える。着物を着た中年4人組、しかも男女混合で銀座だと、ちょっとしたde銀みたいだ。芝居は「浮舟」が時代錯誤な脚本で、しかもまた小日向の天狗にひっかきまわされ、そのうえ高麗屋の勧進帳がへんてこりんで消化不良。その不満が爆発したのか、そば屋からカラオケ、そのうえ六本木までさまよい、おまけに帰り道がわからなくなって神谷町まで歩いてしまった。おかげでキツイ草履の鼻緒が少し伸びた。

(更新:2004-01-07-WED)


Profile 松嶋ヤヨイ(まつしま・やよい)

夫なし子なし。ゆえに?「仕事以外の人生はすべてひまつぶし」であると言い切る、40代♀。「最近芝居と着物に目覚め、充実したひまつぶしを送っている」らしい。ちなみにうなぎは名古屋・蓬莱軒のひつまぶしに限る。



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