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秋夕症候群
TEXT by 中山義幸(Gauche)
秋夕(チュソク)である。秋夕とは日本でいえば旧暦のお盆のこと。韓国人はこの秋夕を正月と並ぶ節日として大切にしている。今年は9月11日が旧暦8月15日となり、13日までが秋夕連休だった。
儒教の教えに則り、祭祀(法事)を行い、先祖の墓に参り、松餅を食べ、年に一度、親戚一同が打ち揃う韓国ならではの良き風俗と、どこぞの韓国の本には書いてあり、連休の前後は、帰省ラッシュになるものの、まあ日本にもお盆があるし、そのちょっと大きいものぐらいに私は思っていたのである。
だが、女友だちは秋夕を称して「身の毛もよだつ秋夕」と語り、男友だちは「憂鬱な秋夕」と言い、一向に楽しそうにない。
彼女は、運悪く(失礼ではあるが)長男のもとへ嫁いでしまった。そう、将来は祭祀の準備を一手に担うのである。「秋夕の前には、仕事の合間を縫ってデパートに出かけ、義父母やら親戚やらに贈る『秋夕の贈物』を買い揃え、田舎に着いたらずーっと台所に立って祭祀の料理や松餅を作り、舅や姑に気を遣う。親戚一同が集まるといっても皆『旦那の親戚』だから懐かしくもない……。『秋夕の贈物』にしてもこのところの不景気で予算はないし、かといって贈らないわけにもいかない」と言うのである。
こんな事情を反映してだろうか。近年「秋夕症候群」というのが韓国の主婦層の間に広まっているという。秋夕が近づくと、ストレスが溜まり、イライラしたり、気が重くなったり、秋夕が終わると、疲れ果てて寝込んでしまったりするというのである。
韓国のアンケート調査機関が行った調査によれば、主婦の47%が「秋夕が楽しく感じられない」と答え、インターネットのサイバー主婦大学というサイトが会員1127名を対象に行った調査でも10人に7人が「秋夕症候群」を訴えたという。
さらに秋夕に負担をおぼえるのは、なにも主婦だけではないらしい。「憂鬱な秋夕」と語った男友だちは、秋夕の前には、顧客や世話になっている人に「秋夕の贈物」をしなければならないのだが、今年は不景気で秋夕ボーナスも少なく大変だったと愚痴をこぼした。「秋夕の贈り物はできるだけ簡単にしましょう」と、新聞などでも特集を組んだりしているが、そこは小学校の先生などに公然と寸志の封筒が届くお国柄、簡単にはいかないようだ。
誤解を恐れずに言えばつまり、韓国の秋夕は、日本の「盆の墓参りと正月のおせち料理作りと法事」が束になってやって来たようなものなのである。その威力は日本の比ではない。長男の嫁をして「身の毛もよだつ」と言わしめるだけあって、独り者の日本人の想像を超えた世界が、そこにはある。
だが、思えば秋夕の行事はこうして綿々と続いてきたのである。愚痴をこぼしていた彼女も数年後には、この「盆の墓参りと正月のおせち料理作りと法事が束になったヤツ」を平然とこなしていくのだろう。ああ、儒教の教えは永遠に続く──、秋夕恐るべし、韓国人恐るべしである。
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