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韓国人を虜にするオリオンチョコパイ
TEXT by 中山義幸(Gauche)
オリオンチョコパイである。韓国人にチョコパイといえば、すかさず答えが返ってくるのがこれである。決して×△テチョコパイではない。映画『JSA』に出てきたチョコパイといえば、思い出す日本人もいるだろう。
10月下旬、オリオンは1974年の発売以来29年で、単一品目としてこのチョコパイの累積売り上げが、1兆ウォンを超えたと発表した。1兆ウォン!? 日本円で1000億円、1個100円しないチョコパイがこれだけ売れた。現在までに85億個。チョコパイを1列に並べると、地球を15周分。韓国の国民(4700万人基準)1人当り平均180個ずつ食べたことになるという。まさに韓国人を虜にしてきた菓子である。 こんなに彼の国の人々の心を掴んでやまないチョコパイなのだが、留学時代、私はあまり食べたことがなかった。どちらかといえばホットックや薬菓が好きだったので、日本にもあるような洋菓子を食べても仕方がないと敬遠していたのである。だが、売り上げ1兆ウォンと聞いて、そんなにおいしいのかと、改めて食べてみたいと思った。
早速、新大久保の「広場」でオリオンチョコパイを購入。ついでに韓国チョコパイの双璧とされる×△テ製のものと比べてみようと、探したのだが、オリオン人気に圧倒されてか、カスタードケーキ類はあるのに、なぜかチョコパイ類はない。仕方なくコンビニで日本販売バージョンの×△テ製チョコパイを購入(×△テの菓子はパッケージだけ替えて同じものが韓国でも販売されているので、これも同じだろうと判断)、双方を食べ比べてみた。
外見は両者ともソフトケーキで「餡」を挟み、チョコレートでコーティングされて同じだが、味わいと食感がまったく違う。
×△テ製は「餡」にバニラクリームをふんだんに使い、外側のチョコレートコーティングも厚めで高級感を出している。一方、オリオン製はバニラクリームの代わりにマシュマロを使用し、チョコレートのコーティングは×△テ製に比べてやや薄めである。これはもしかして、×△テ製の方がおいしいかもと思ってしまったのだが……。
果たして、私の独断と偏見でいえばオリオンチョコパイに軍配が上がってしまった。
×△テ製は一口食べるとチョコレートの味が口の中に広まり、続けてバニラクリームの味が来るのであるが、チョコレートのコーティングがたっぷりめにかかっているため、あえて誤解を恐れずにいうとチョコレートの甘さが勝ちすぎてしまって、おいしいけれど、私には「1個で十分です。ごちそうさま」といった感じであった。
一方、オリオン製は、一口食べるとチョコレートの味の次にマシュマロのふわふわとした食感が口の中に広まり、チョコレートコーティングも薄めなので、チョコレートとマシュマロの甘さ、ふわふわ感とが絶妙のハーモニーを織りなし、甘さ一辺倒になるところを上手く抑えて味わい深さを出している。最後の一口まで楽しめ、「甘いのが苦手な人もこれなら大丈夫かも……」と、個人的にはオリオン製を気に入ってしまった(あくまで個人的な意見である)。
映画『JSA』には、密会の場面で韓国の兵士が北の兵士にこれを渡して、「こっちに来ないか、 来れば、こんなにおいしいチョコパイが毎日食えるぞ」と亡命を誘うと、北の兵士はチョコパイを吐き出して「南よりもっとおいしいチョコパイを作れる国にしたい」と語る印象深いシーンがある。 この映画でなぜ、チョコパイが出てくるのかといえば、軍隊へ行ったことのある韓国の男性にとってオリオンチョコパイは特別な思い入れのある菓子だからである。
苦しい軍隊生活の中、面会に来た家族から差し入れてもらったオリオンチョコパイを仲間に隠れてトイレの中で泣きながら食べたとか、軍の中で行われる宗教行事に参加すると、ご褒美として参加者全員にオリオンチョコパイが配られるのだが、なぜかキリスト教は2つで、仏教は1つだったので熱心な仏教徒にもかかわらず、チョコパイほしさにキリスト教の行事に参加したとか。そのエピソードはつきないのである。
そんな逸話の多いオリオンチョコパイは現在、海外50カ国に輸出され、中国では現地生産もされてナビスコ、ネスレなど多国籍食品企業を抑え、中国のパイ市場占有率63%、3年連続1位となっている。これは、もしかして世界で一番売れているチョコパイといえるのかあ……。う〜ん、オリオンチョコパイ、恐るべしである。
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